オリーブ牛 公式サイト


オリーブ牛のブランド化への取り組み

文章・写真:(株)肉牛新報社 矢野 仁得

【はじめに】

 素牛高・飼料高が続き、厳しい経営が続く肥育経営。そうしたなか、急速に知名度を上げて高値販売を実現しているのが香川県のブランド牛「オリーブ牛」である。

 オリーブ牛の本格的なブランド展開が始まったのは9年前から。では、オリーブ牛がどのようにしてブランドを確立していったのか、その取り組みを見ていきたい。(取材日:平成31年7月2・3日)

【オリーブ牛の生みの親、石井正樹氏】

経営の概要

 オリーブ牛は小豆島で和牛肥育を営む石井正樹氏(70歳)によって始められた。まずは簡単に石井氏の経営と飼養管理について紹介する。

 石井氏は現在、和牛去勢牛を中心に約20頭(うち繁殖牛3頭)を飼養している。素牛の導入先は県内と北海道の十勝市場で、導入目安は月齢8~10ヵ月、体重280~300kg程度である。また「今は素牛価格が高いのであまり血統を選べない」とのことだが、それでも導入するときは共励会に出品できそうな血統の牛も1~2頭導入するようにしているそうだ。導入する牛の好みは、①エサをたくさん食べてくれるように口が発達した丸顔、②枝重が期待できる体高のある牛、とのこと。また経営安定のため、「飼養頭数の1割は素牛導入よりコストがかからない自家産牛にしたほうがいい」というアドバイスを受け、第1花国の雌産子を2頭、華春福の雌産子1頭、合わせて3頭の繁殖牛を飼養。これらの繁殖牛には美津照重等の肉質・脂質に優れた資質系の種雄牛を交配しているそうだ。出荷目安は30ヵ月齢とのことだが、これは石井氏が自分で様々な月齢の牛の肉を食べてみた結果、30ヵ月齢まで肥育した牛が美味しかったためだという。出荷先は坂出市にある香川県畜産公社が中心で、他には高松市場や兵庫県の加古川市場などへも出荷しており、平均枝重は去勢で約530kg、4等級以上が9割以上となっている。

オリーブ牛誕生のきっかけ

 オリーブ飼料を与えるようになったのは今から12年前、出荷先の1つである加古川市場の社長から受けたアドバイスがきっかけだった。石井氏は当時、香川県の地域ブランドである「讃岐牛」として出荷していたものの、石井氏の出荷先の1つである加古川市場は地元の高級ブランド「神戸ビーフ」の出荷先でもあり、その価格差は非常に大きく、1kgあたり1000円以上の差がつくことも珍しくなかったという。こうした状況を目にし「『同じ格付員が格付けしているのに、なぜこれだけ差が付くのか?』と、いつも悔しい思いをしていました」と石井氏は当時を振り返った。それに対し、加古川市場の社長は「それがブランド力の差です」と述べ、そして「讃岐牛も香川県らしい特徴を持った、美味しい牛肉を作ってみては?」とアドバイスをくれたそうだ。

 ちょうどその頃は、脂質の善し悪しに関係するオレイン酸を含む一価不飽和脂肪酸(MUFA)を肉質評価の参考値として測定したことが話題となった鳥取全共(第9回全国和牛能力共進会)が開催された直後で、その次に開催される長崎全共からはMUFAが審査の際に加味されることになっていることも石井氏は耳にしていた。そうした時、地元小豆島の名産であるオリーブにはオレイン酸が豊富に含まれていることに石井氏は気がつく。そこでオリーブの実を飼料化して牛に与えれば、牛肉中のオレイン酸値が高まって美味しくなり、ブランドとしての特徴も出せるのではないかと石井氏は考えた。

 さっそく石井氏は小豆島のオリーブオイルの製造工場からオリーブの搾り粕を譲り受けて牛に与えてみたものの、オリーブの実はカラスも食べないほど渋みが強く、全く牛が食べてくれなかった。そこで県の試験場に相談したところ「サイレージにしてみたらどうですか?」とアドバイスされたという。早速石井氏がサイレージ化を試みたところ、確かに牛は食べてくれるようになったのだが、夏場は腐食してしまい長期保存ができなかった。こうして、どのようにして飼料化すればいいのか悩んでいたとき、たまたま近所の人が干し柿を作っているのを石井氏は目にする。そこでオリーブの搾り粕を乾燥させることを思いつき、倉庫やビニールハウス、北風の当たる海岸など、いくつかの場所で乾燥させることとした。そのなかで、海岸で北風に当てて干したオリーブの搾り粕が一番早く乾燥したので早速牛に与えてみたところ、牛が喜んで食べてくれたそうだ。

 オリーブの飼料化に成功した石井氏が次に取り組んだのが、適切な給与期間と給与量の調査であった。この頃の石井氏は60頭ほど肥育していたというが、この60頭を7つの試験区に分け、様々な給与期間と給与量を試してみたそうだ。こうしてある時、オリーブ飼料を出荷前に3ヵ月弱与えた牛を、オリーブ飼料を与えたことは内緒にして加古川市場で行われた共励会に出品したという。すると加古川市場の社長から石井氏へ「すぐに冷蔵庫へきてほしい」と声がかかったので冷蔵庫へ行くと「今までの肉と全然違いますが、何かしましたか?」と質問されたそうだ。そこでオリーブ飼料を与えていることを告げると、「脂質が良くなっていて、非常に美味しい牛肉に変わっていますよ」と褒めてもらったとのこと。この言葉で手応えをつかんだ石井氏は、小豆島の牛飼い仲間2人と一緒に3人で「小豆島オリーブ牛研究会」を結成しオリーブ牛の生産に乗り出すこととした。

写真1:石井正樹(右)さんと石井シカエ(左)さん

 その際に問題となったのがオリーブ飼料の給与期間と給与量だった。給与期間については出荷前3ヵ月弱で効果が現れていたので出荷前2ヵ月間でいいだろうと考えた。一方の給与量については、その頃、3人で年間の出荷頭数が合計で約150頭だったので、オリーブ飼料の生産量を給与期間2ヵ月で割ると1日あたり200~300gになったという。そこで給与期間は出荷前2ヵ月間、給与量は1日200gと規程を定め、配合飼料の上からオリーブ飼料を振り掛けるようにして与えることとした。生産開始当初の石井氏は「1頭あたり2万円くらい高くなればいいな」という考えで始めたとのこと。それも、短期間で実現するのは難しく時間がかかることも覚悟していたそうだ。また、オリーブ牛の生産を始めるにあたって香川県食肉事業協同組合連合会の森山英樹会長(現讃岐牛・オリーブ牛振興会会長)へ挨拶に行ったところ、「久し振りのいい話だ。応援するから頑張って下さい」と言ってくれた上に、県にもバックアップをお願いしてくれたという。

 こうして始まったオリーブ牛の生産だが、オリーブ飼料を与えるようになってからエサを最後まで食べてくれるようになったので枝重が増えたとのこと。それと同時に格付も良くなり、他の仲間も含め3等級以下の発生率が格段に下がったそうだ。そして何よりも変わったのが脂質で、出荷先でも徐々に評判になっていった。こうしてオリーブ牛の出荷を続けて2年が経った頃には、オリーブ牛とオリーブ飼料を与えていない讃岐牛とでは1kgあたり100~200円程の価格差が付くようになっていた。

 こうした状況を見て、「自分もオリーブ牛を生産したい」と声を上げる人が出始める。石井氏は当初から県の担当者に「もしオリーブ牛をやりたいという人が現れたら、ノウハウは全て教えます」と伝えていた。というのも、小豆島では年間150頭しか生産ができない。しかし、県内の生産者みんなでオリーブ牛を生産して多くの人に口にしてもらえば、香川県全体の和牛生産の活性化に繋がるのではないかと考えたからだ。こうして平成23年からは県内全域でオリーブ牛の生産が始まることとなる。

オリーブ牛の人気について

 現在のオリーブ牛の人気振りを見て石井氏は、「讃岐牛・オリーブ牛振興会に流通業者の方々が入ってくれたのが大きいですね」と述べた。一般的にブランド牛の管理団体はJAなどの生産者団体や行政などが中心となっているところが多い。それに対して讃岐牛・オリーブ牛振興会には食肉流通業者で組織された香川県食肉事業協同組合連合会(以下、県肉連)が加盟しており、JA香川・香川県・県肉連・香川県畜産協会の4団体で組織されている。石井氏は「自分たち生産者だけだったら販売まで手が回りません。でも県肉連の方々がいるので私たちの代わりにオリーブ牛の販売に力を入れてくれます。そのことがオリーブ牛のブランド化にとって非常に大きかったと感じています」と述べた。また、それだけでなく、流通・小売業者の方との繋がりが深まったことで消費者の声を聞く機会が増え、消費者が何を求めているのかを一層深く知ることができるようになったとのことだ。

 そして今では県内のみならず、海外でもオリーブ牛の知名度は上がっている。オリーブ牛の生産を始めたころ、石井氏は自分を鼓舞する意味も含めて「海外の富裕層を狙っていきたい」と口にしていたそうだ。その夢は実現し、香港やマカオ、そしてアメリカなどへも輸出されるようになり「本当にありがたいことです」と口にしていた。

小豆島の発展のために

 石井氏の閃きから始まったオリーブ牛生産は、今では小豆島になくてはならない産業へと成長している。その1つは、オリーブ栽培への貢献だ。昨今のオリーブオイルブームもあって、このところオリーブオイルの需要が伸びているところだという。このオリーブオイルの生産に欠かせないのが牛糞の堆肥である。牛糞堆肥はオリーブの木の生長に大変効果があり、オリーブの実の生産量アップに大きく貢献している。オリーブ牛の生産が始まるまでは産廃としてお金を払って処分していたオリーブの搾り粕が飼料となってオリーブ牛の生産と品質向上に役立ち、そのオリーブ牛の牛糞がオリーブの栽培に役立つという循環型農業が今ではしっかりと小豆島に根付いている。そしてそのことが島の経済の活性化に繋がるとともに、オリーブ牛のブランドイメージの向上にも貢献している。このことは島の観光資源にもなっており、わざわざ「小豆島に行ってオリーブ牛を食べよう」という観光客も増加しているそうだ。またこの流れを次世代へ繋げるべく石井氏は行政などの協力を得ながら定期的に学校給食や島のイベントなどへオリーブ牛を提供しているとのことだ。

 今のオリーブ牛の人気や小豆島の賑わいについて石井氏は「オリーブ牛の生産に取り組んだことによって県内の畜産業の発展と小豆島の振興に貢献でき、本当に嬉しく思います」と述べ、これからも少しでも関係者の役に立てればとのことであった。

【第11回全国和牛能力共進会脂肪の質賞受賞者 塩田清勝氏】

経営の概要

 平成29年9月に宮城県仙台市で開催された第11回全国和牛能力共進会において脂肪の質賞を受賞し、オリーブ牛のブランド化に大きく貢献したのが、三豊市で一部一貫経営を営む塩田清勝氏(70歳)である。塩田氏は今から13年前に務めていたJAを退職し、繁殖牛6頭から経営をスタートさせた。その後、飼養頭数を増やしつつ肥育にも取り組みはじめ、現在は和牛約70頭(うち繁殖牛約20頭)を飼養している。

 肥育素牛の導入先は距離が近くて輸送による牛へのストレスが少ないことから岡山市場を中心とし、他には鳥取市場からも導入している。導入するのは現場である程度評価が出ている血統で育種価の高い牛が多く、導入目安としては日齢240~270日、体重300kg程度の日齢に準じた発育をしている牛だという。その上で、皮膚が薄くスッキリしつつも腹がしっかりできた姿の牛を好んで導入するそうだ。一方の自家産牛については、現在飼養している繁殖牛は安福久や美国桜、百合茂、勝忠平、諒太郎などの雌牛が多く、それらには牛の大きさと状態を見ながら基本的に三元交配になるような種雄牛を選んで交配するとのこと。こうして生まれた子牛は8ヵ月齢を目途に肥育をスタートさせ、27ヵ月齢を目安に香川県畜産公社・高松市場・加古川市場・神戸市場へ出荷している。また最近は、なるべく脂質の良い血統を揃えたいと考えていて、つい最近、雌牛の遺伝子検査を行ったとのこと。次回の鹿児島全共に向けてはその結果が判明してから種付けしようと思っているそうである。

オリーブ牛生産のきっかけ

 塩田氏がオリーブ牛の生産に取り組み始めたのは今から9年前のこと。オリーブ牛の評価が上がりだし、県としてオリーブ牛の生産に取り組み始めようという時期だった。この時、県はオリーブ牛の生産に取り組むにあたって、県内の肥育農家で組織された讃岐牛モデル農家連絡協議会(以下、協議会)の会員農家に声を掛け、オリーブ飼料の給与試験への協力を求めた。この呼びかけに約30戸の農家が応じたのだが、そのうちの1人が塩田氏だった。塩田氏はオリーブ牛の生産に取り組むに際し「今までの飼養管理を変えずに、最後の2ヵ月間だけオリーブ飼料をエサの上に振り掛ければいいだけですから、大した作業ではないので取り組みやすかったですね」と振り返った。

 塩田氏によれば、以前の香川県はかなり地域性があったそうで、東部は比較的繁殖が多く西部は肥育が盛んだったとのこと。そのなかでも東部は兵庫県に近いため但馬系統の牛が多く西部は岡山県に近いので藤良系統が多かったそうだ。さらに肥育も和牛が多い地域もあればF1肥育主体の地域もあるし乳雄肥育が盛んな地区もあり、よく言えばバラエティに富む、悪く言えば統一感のない産地だったという。そうしたこともあって讃岐牛の出荷先である神戸市場や加古川市場では品揃えが悪いと言われていて価格が伸び悩んでいたそうだ。そこで増体系の牛を導入して発育の均一化を図ったところ、「今度は脂質が悪い」という市場関係者からの声が寄せられるようになってしまったという。

 そんななかでオリーブ飼料の給与を始めた塩田氏だったが、オリーブ飼料を与えたところ、エサにオリーブ飼料を振り掛けると牛がオリーブ飼料をめがけて食べにくるほど非常に嗜好性が良く驚いたそうだ。こうしてオリーブ飼料を与えた牛を出荷したところ、脂質が良くなっていることが自分でも確認できたし、市場関係者からも脂質を評価してもらえたとのことだ。こうして協議会でオリーブ牛を出荷し始めて1年が過ぎた頃から県内市場ではオリーブ牛とオリーブ飼料を与えていない讃岐牛とで1kgあたり100~200円の価格差が出るようになっていった。

 それまで香川県内には数多くの肥育農家のグループがあり、それぞれ独自の生産活動を行っていたそうだが、オリーブ牛との価格差を目にし、こうした人たちが続々とオリーブ牛の生産に参加するようになっていった。こうして県内の和牛生産者が一体となってオリーブ牛の生産に取り組むようになったことで生産頭数も拡大するとともに品質の斉一化が図られる。そして香川県がオリーブ牛の生産拡大に乗り出してから3年ほどで関西圏でもオリーブ牛の名が浸透し始め、脂質の良さから相場よりも高値で取引されるようになっているそうだ。

宮城全共での脂肪の質賞受賞

 平成29年9月に宮城県仙台市で開催された第11回全国和牛能力共進会宮城県大会(以下、宮城全共)。香川県はオリーブ牛のPRのため、この宮城全共での脂肪の質賞獲得を最大の目標として掲げ、塩田氏はその第9区(去勢肥育牛)への出品に自家産牛で挑戦した。

 出品牛の父は当時現場後代検定中で、肉質・脂肪質に期待がかかっていた県有牛の讃岐安福(父:安福165の9、2代祖:福栄、3代祖:平茂勝、4代祖:紋次郎)、母「ゆりかつ」(父:百合茂、2代祖:安茂勝、3代祖:美津照、4代祖:紋次郎)は塩田氏が鳥取県から導入した雌牛であった。「ゆりかつ」は3代祖・4代祖が但馬系、父と2代祖も気高系ながら脂質に定評のある百合茂と安茂勝だったので、脂肪の質賞獲得に向け「ゆりかつ」産子で挑戦しようと考えたそうだ。

写真2:塩田清勝(右)さんと「ゆりかつ」号

 こうして生まれた子牛は「ゆりかつ」の初産牛になるが、順調に発育していき肥育を始めて1年(生後18ヵ月齢?)が過ぎた頃には塩田氏が期待を持てる発育・体型になっていたという。そしてマニュアル通り宮城全共開催の2ヵ月前から1日100gのオリーブ飼料を毎日給与し、最終的には見事香川県代表の座を射止める。出品された枝肉を現地で見た塩田氏は「良い脂質をしているな」と、とても23ヵ月齢の枝肉とは思えない納得の出来栄えだったそうだが、数値を見てもMUFAが65.3%と通常の30ヵ月齢程度の枝肉に匹敵する内容であった。そして枝肉の参観後に脂肪の質賞受賞の一報を耳にしたわけだが、そのときの感想を塩田氏に尋ねると「仕上がりの状態や血統も良かったので期待はしていましたが、狙って獲れるものではないので、とにかくビックリしました。特に自家産牛での受賞だったので格別に嬉しかったですね」と振り返った。脂肪の質賞を獲得できた要因について聞くと「エサと血統の組み合わせ、それに自家産牛だったので移動などのストレスが少なかったことなどが上手く噛み合ったのがよかったのでは」と語ってくれた。また脂肪の質賞受賞はオリーブ牛の県内でのPR効果が非常に大きかったそうで、流通・販売業者もオリーブ牛をそれまで以上に販売しやすくなって一層力を入れてもらえたとのこと。塩田氏は「オリーブ牛の普及・振興に貢献できて本当に良かったと思っています」と述べていた。

 今後は、これまで以上にオリーブ牛らしい牛の飼養管理に努めるとともに、令和4年に開催される鹿児島全共への出品と好成績を目指して頑張っていきたいとのことである。

【オリーブ牛のブランド化について】

香川県食肉事業協同組合連合会会長の二川隆一氏・同副会長の笹原勝彦氏・JA香川営農部部長の北岡泰志氏

 オリーブ牛のブランド管理を行っているのは、JA香川・香川県食肉事業協同組合連合会・香川県・香川県畜産協会の4つの団体で組織される「讃岐牛・オリーブ牛振興会」である。香川県食肉事業協同組合連合会(以下、県肉連)の笹原勝彦副会長によると、もともと讃岐牛には指定店制度が存在し、20万円の加入権を支払って加盟した流通・小売業者のみが讃岐牛を扱えることになっていた。ところが、指定店制度を立ち上げてから時間が経つにつれて、指定店以外でも讃岐牛を扱う店が現れ始め、正規の加盟店から「それでは加入している意味がないではないか」という声が上がるようになっていた。オリーブ牛のブランド化が検討され始めたのもちょうどそんなときで、讃岐牛の指定店制度に不満のある加盟店もあったことから、讃岐牛の指定店制度は一旦廃止し、新しく組織を立ち上げることとなる。こうしてJA香川・県肉連・香川県・香川県畜産協会の4団体が加盟して設立されたのが讃岐牛・オリーブ牛振興会(以下、振興会)である。振興会ではたくさんの流通・小売業者にオリーブ牛を取り扱ってもらおうという考えから、入会金1万円(現在は2万円)・年会費5000円と低額に設定。そのこともあって当初の目論見通り多くの流通・小売業者に参加してもらえたそうだ。

 その一方で多くの流通・小売業者が扱うにはそれなりの量も必要になる。そこで生産農家の拡大を図ったのだが、生産者からはオリーブ飼料を与えることで「肉色が濃くならないか」「サシが消えないか」といった不安の声が多数寄せられたという。そうした声を受け、最初は30戸の生産者に協力してもらって給与試験を行い、その肉質結果を見ながら徐々に参加農家を増やしていったそうだ。

 こうして振興会が設立され、オリーブ牛のブランド化を図っていくことになったわけだが、その際に、「最終的には地元が支えてくれる。だから地元に愛されるブランドになろう」ということで、振興会設立1年目はオリーブ牛の出荷を県内だけに限定し、県内出荷頭数500頭を目標に徹底してありとあらゆるイベントを行ったという。その効果もあって県内における知名度が一気に上昇。今では県内の百貨店でオリーブ牛がブランド牛の1番手として扱われており、県産品の知名度でもオリーブ牛が1位(香川県県産品振興課調べ)になっているほどだ。JA香川の北岡泰志部長は「生産者と流通(小売店や飲食店を含む)が一体となって販売展開できたことが短期間でブランド化できた要因の1つではないかと思います」と話していた。そしてこうした取り組みをバックアップしたのが行政だ。設立1年目は県内限定でオリーブ牛の普及に全力を注いだ振興会だが、2年目は関西圏、3年目は首都圏、4年目は海外とブランド展開の場を広げていった。その際に様々なPR活動や販路拡大のイベントなどを行ったが、こうした活動を香川県が全面的にバックアップ。県肉連の二川隆一会長は「他県の人からは、『これだけブランド牛の流通対策・販路拡大に力を入れている行政はない』と言われるくらいの支援をいただけたことは、オリーブ牛のブランド化にとって大きな力になりました」と述べた。県がこうした販路拡大を支援するのは、それによって流通業者が儲かれば流通業者はオリーブ牛を肥育農家から高く仕入れられる。そうなれば肥育農家は県内の繁殖農家から高く子牛を仕入れられる。それと同時に流通業者が儲かることで県内の雇用も生まれ、最終的には香川県全体が潤うことに繋がるからだ。このような生産者・流通・行政が一体となった取り組みがブランド化にとって功を奏したのだと言えよう。

オリーブ牛のブランドイメージ

 オリーブ牛が短期間のうちに広く県民の間に浸透した理由の1つに、オリーブオイルに対するイメージの良さが挙げられる。特に女性には、「オリーブオイルは健康に良い」というイメージが浸透しており、そのオリーブの実を食べて育てられているということから、オリーブ牛に対しても良い印象を持ってもらえたという。また、オリーブを食べて育てられた牛の牛糞堆肥がオリーブ栽培に活用されるという循環型農業のイメージも消費者の支持に繋がっているようだ。

 ではこうしたオリーブ牛の肉はどのような品質なのだろうか。笹原氏によれば、オリーブ牛はオリーブ飼料を与えているため、オレイン酸を含む一価不飽和脂肪酸の割合が高く、そのためたとえ霜降り度合いが高くても爽やかな脂で口溶けが良く、独特の風味を持ったものが多いとのこと。また和牛肉には大きく分けて食べた後に“コク”を感じるものと、“キレ”を感じるものとがあり、オリーブ牛はどちらかというと味に“キレ”があるものが多いという。そのため「霜降りが多くてもたくさん食べられる」という声が消費者から多く寄せられているそうだ。そして、こうしたオリーブ牛の品質とオリーブオイルに対するイメージとがマッチし、オリーブ牛に対する高い評価に繋がり、相場より高値で取引される状況になっているのである。

 ではこうしたオリーブ牛の品質を維持するために、振興会ではどのようなことを行っているのだろうか。現在、オリーブ牛の飼養マニュアルでは出荷2ヵ月前から毎日100g(オリーブの実に換算すると約300粒)給与することとなっていて、このマニュアルを守ることが徹底されている。というのも、もしマニュアルを破って規定量や給与期間を守らないと一定の品質が保てなくなるからだ。振興会ではブランド化にあたり適切な給与期間と給与量を調べるために様々な給与方法を試したそうで、それを踏まえて辿り着いたのが現在の給与マニュアルなのだ。北岡氏は「振興会では会員農家の飼養頭数を把握しているので、どの農家に1ヵ月あたりどれだけの量が必要か計算できます。ですから、オリーブ飼料の減りが早かったり遅かったりすれば、すぐにマニュアルを守っていないことがわかるので、そうした場合はマニュアルを守るよう指導できる体制になっています」と説明した

写真3:左から笹原勝彦氏、二川隆一氏、北岡泰志氏

 またオリーブ牛にはオレイン酸の値が〇%以上といった数値基準が存在しない。なぜならオレイン酸等の特定の物質の多寡だけでは牛肉の美味しさは測れないからだという。これは同じオレイン酸値でも産地や飼料によって味が異なることを、これまで幾度となく行ってきた食べ比べによって実感しているためだ。したがって、だいたいこの範囲が適切だろうという「ストライクゾーン」を見極めるため、数値を念頭に置きつつも最終的には生産者・流通業者・小売業者などが頻繁に一緒に食べることによって、オリーブ牛らしい味の確認と摺り合わせをして品質の安定を図っているそうだ。

 このような取り組みによって消費者からの支持を獲得し、ブランド化を実現したオリーブ牛であるが、それを守るべく国内外で商標登録を行うと同時にJAと県肉連でオリーブ飼料の飼料化に関する特許を取得。こうして他所に真似されない環境も整えている。

【オリーブ牛のこれから】

讃岐牛・オリーブ牛振興会の森山英樹会長・讃岐牛モデル農家連絡協議会の合田政光会長・香川県農政水産部の国分伸二部長

 振興会の発足から9年が経ち、着実に知名度が向上しているオリーブ牛であるが、国内だけでなく海外でも広がりを見せている。香川県農政水産部の国分伸二部長によると「海外におけるオリーブ牛の反応は予想以上に良好です」とのこと。昨年度はオリーブ牛全体の出荷頭数が2400頭弱だったなか、そのうちタイへ約20頭、アメリカに約140頭が輸出された。アメリカ向けについては、昨年度日本からアメリカに輸出された牛肉のうち、オリーブ牛が金額にして約5%を占めていて、これはオリーブ牛の年間出荷総数から考えると、かなりの健闘と言える。アメリカでは特に富裕層から高い評価を得ており、今ではアメリカ国内の超高級ホテルで通常メニューとして提供されているそうだ。こうしたアメリカでのブランド展開については、平成28年度からニューヨークの著名フードジャーナリストであるNick Solares(ニック・ソラレス)氏と提携し、アメリカ国内での知名度向上に取り組んできた。SNSで数百万人のフォロワーがいるニック氏の発信によって、オリーブ牛の知名度は確実に上がってきているのと同時に、レストランのシェフ等からの問い合わせも増えているという。また、香川県を訪れる外国人観光客のなかにはニック氏の発信を目にし、オリーブ牛を食べられるお店がどこか問い合わせてくる人も増えており、インバウンド効果にも貢献しているそうだ。

 このように国内外で評価が高まっているオリーブ牛であるが、さらなる発展に向けて今後どのような取り組みをしていくつもりなのだろうか。これについて振興会の森山英樹会長は「より品質の安定を図るため、県内出荷に関しては全頭MUFAを測定し、その適切な範囲がどの程度なのか分析するとともに、農家ごとの値を比較することでオリーブ牛全体のバラツキが少なくなるよう飼養管理に生かしていきたいと考えています」と述べた。また、販売面については「今年度は、EPAが締結されたこともあり一時輸出を見合わせていたEUへの輸出を検討しています。一方の国内については来年の東京オリンピック・パラリンピックに向け首都圏での販路拡大を図ると同時に、来年は振興会設立10周年なので、もう一度県内での消費拡大に努めていきたいと考えています。また、来県した外国人観光客から『どこに行けばオリーブ牛が食べられるのか?』という問い合わせが増えているので、多言語案内も計画中です」とのこと。

写真4:左から合田政光氏、森山英樹氏、国分伸二氏

 こうした販路拡大に対し、オリーブ牛を供給する生産者側はどのような取り組みを行っていく予定なのだろうか。讃岐牛飼育モデル農家連絡協議会の合田政光会長によれば、現在、オリーブ牛の年間出荷頭数の目標は3000頭とのこと。オリーブ牛が高値取引されていることもあって規模拡大する生産者がいる一方で高齢化による廃業もあり、目標とする3000頭にはまだ到達していない。しかし「実は10年前から県が繁殖牛の導入事業の支援を行っているのですが、今年に入ってその効果が現れ、香川家畜市場の1開催あたりの上場頭数が昨年までの70頭前後から今年は140頭程度へと倍増しているので、こうした取り組みを続けていけば目標とする出荷頭数3000頭に近づけるのではないかと思います」と合田氏は明るい展望を示した。現在、香川県内の繁殖雌牛は約1400頭。そのため、県外からも子牛を導入してオリーブ牛の生産をしているわけだが、繁殖牛の増頭が続けば「香川生まれ・香川育ち」のオリーブ牛の増加にも繋がり、「さらなるブランドイメージの向上にも役立つだのではないだろうか」と合田氏は話した。またその際に重要なのは「単に増頭するのではなく、他の産地と差別化を図るためにいい牛を増やしていくこと」と合田氏は述べ、そのためにはオレイン酸評価なども取り入れながら一層の品質向上に努めていきたいとのこと。そして、「将来的には『香川生まれ・香川育ち』のハイブランドなオリーブ牛の創設に繋げていければ」と述べていた。