オリーブ牛 公式サイト


NYスタイルで味わうオリーブ牛

~ 平成30年度 首都圏「オリーブ牛」セミナー ~

文・中島茂信
写真・藤田修平

「オリーブ牛は、肉も脂もやわらかいですね。ポリフェノールなどを含むオリーブ飼料(オリーブオイルを搾ったあとのオリーブを乾燥させたもの)を与えているので、脂の融点が低くて、やわらかく、脂がとけやすいのではないでしょうか」

米澤文雄さんが、オリーブ牛と出会ったのは3年前。

フレンチレストラン「ジャン・ジョルジュ東京」(港区六本木)のシェフだった米澤さんは、高松国際ホテル(うどん県高松市)で、同ホテルの松原勉シェフとのコラボでオリーブ牛を使ったフェアを開催した。

そして昨年9月、青山にオープンした「THE BURN」のシェフに就任する。
オリーブ牛の良き理解者でもある米澤シェフに2月4日、オリーブ牛セミナーをお願いした。

米澤シェフに課せられたテーマはひとつだけ。

『オリーブ牛を好きに使ってほしい。』

このことであった。

【米澤文雄シェフのプロフィール】
1980年東京都出身。高校卒業後、恵比寿のイタリアン「イル・ボッカローネ」を経て、22歳で単身NYへ。フレンチ「ジャン・ジョルジュ」で日本人初のスーシェフに着任。
2014年、「ジャン・ジョルジュ東京」のオープン時、シェフ・ド・キュイジーヌに。2018年9月、「THE BURN」のシェフに就任する。
2013年 アメリカ大使館「Taste of America」日本大会優勝。2015年、日本最大級の料理人コンペティションRED U-35で「ゴールドエッグ」を受賞する。

セミナー開催にあたり、香川県農政水産部の国分伸二部長が挨拶した。
「オリーブ牛の脂質が国内外で高く評価されているおかげで、アメリカへの輸出が非常に増えてきました。年間約2,200頭の生産のうち、本年度は12月までに100頭以上がアメリカに輸出され、評価がますます高まっています。本日は、米澤シェフによるオリーブ牛料理をお楽しみください」

一品目は三部位(ミスジ、内モモ、ランプ)の食べ比べ。
「できるだけピュアな状態でオリーブ牛を食べてほしい」
そう考えた米澤シェフは、オリーブオイルを引いたフライパンで焼き色があまりつかない程度にオリーブ牛をソテーした。
「ふつうは塩をしたものをソテーします。でも、何も使わず、オリーブ牛本来の味を味わっていただくことにしました。瀬戸内海産の塩を添えてお出しします。半分は何もつけずそのままで、残り半分はお好みで塩をつけて召し上がってください」

(左から)ミスジ、内モモ、ランプ。

本日の講師を紹介させていただく。
NY在住の食肉ジャーナリスト、ニック・ソラレスさんである。
5年ほど前、うどん県でオリーブ牛を食べて以来、オリーブ牛の虜になってしまった。
オリーブ牛をアメリカに広めようと、NYやシカゴなどで紹介してくれている助っ人である。
しかも米澤シェフとは3年前からの友人。
米澤シェフが高松国際ホテルでオリーブ牛フェアをした際、ニックさんも偶然居合わせた。
ニックさんと一緒に来ていたNYのシェフと米澤シェフが知り合いだったことから、ふたりは意気投合。いまやNYで一緒に食べ歩きをする間柄。
オリーブ牛のアメリカへの輸出が好調ということもあり、アメリカでのオリーブ牛の評判をニックさんに報告してもらいたい。
そんな意図もあり、今回、ニックさんにセミナーの講師をお願いした。
料理は、アメリカで働いていた経験もあり、ニックさんの友人でもある米澤シェフに頼んだ、という次第。

さて。
米澤シェフが提案した三部位の食べ比べをどう思ったか。ニックさんに感想を尋ねた。
「比較しながら食べることで部位の違いが分かりやすく、とても有効な方法だと思いました」(ニックさん)

二品目は、米澤シェフの創作料理が登場した。
「オリーブ牛を自由に料理していいといわれていたのと、どこにでもある料理を出しても面白くないと思ったので、オリーブ牛のサーロインをヌードル状に切りました」
オリーブ牛は、うどん県が産んだブランド牛。だからというわけではなかろうが、オリーブ牛をうどんのように見立てた料理だった。
細くカットしたオリーブ牛のサーロインをガーリックオイルと一緒に、真空にした状態で45度程度で加熱した。
ヒヨコ豆のペーストを引いた皿に、ヌードル状のオリーブ牛を盛る。その上に香川本鷹(香川特産の唐辛子)を使ったアリッサソース(唐辛子やニンニク、スパイスなどで作るピリ辛の調味料)をかけた。
仕上げに、ローストしたナッツとイタリアンパセリをあしらった一品。

前述したように、米澤シェフは「オリーブ牛は脂がやわらかく、とけやすい」と評価している。
そんなオリーブ牛を細く切ったことで、サーロインが口の中で〈すうっ〉と、とろけるような食感に昇華したのだった。
おまけに砕いたナッツが、その存在感をしめすかのように口の中でころがり、舌と歯に心地よい。
そこに香川本鷹で作った、ピリッと辛いアリッサソースが追い打ちをかける。
甘みを含んだオリーブ牛とあいまり、複雑で、不思議な味わいを醸しだしていた。

「この料理はシェフのアイデア。素晴らしかった」とニックさんも高評価。
感動したのはニックさんだけではなかった。
この日、ニックさんの通訳をお願いした鈴木裕子さんも絶賛した。

鈴木さんは「オフィスムスビ」(大阪市)の代表取締役として、日本の食を国内外に広めるべくマーケティングなどを企画している。
ニックさんとタッグを組み、オリーブ牛をアメリカで紹介してきた。
NYのレストラン事情にも詳しい鈴木さんが、米澤シェフの創作料理についてこう語る。
「NYでは、アリッサソースのような中近東の料理を取り入れる店をよく見かけます。この料理は、NY のジャン・ジョルジュのスーシェフを経験した米澤さんだからこそ作れる、まさにNYっぽい料理でした」 これまで経験したことのない、米澤シェフのアイデアが光るオリーブ牛料理だった。

最後は、骨付きサーロインステーキ「Lボーンステーキ」が届いた。

「サーロインステーキはうちのスタイルともいえる、表面を強めに焦がしながら備長炭で焼きました。お好みで塩をつけて召し上がってください」(米澤シェフ)
Lボーンステーキは、アメリカのステーキハウスでもっとも好まれるステーキの定番中の定番。1枚1,200グラムのステーキを数名でシェアしてもらった。

「これまでいろいろなオリーブ牛料理を食べてきましたが、米澤シェフのLボーンステーキはトップクラス。ビジュアル的にも非常に魅力的でした」(ニックさん)
なぜニックさんの目にLボーンステーキが魅了的に映ったのか。
アメリカでは、骨付きの和牛を見たことがなかったからだ。
現在、アメリカには骨付きの和牛は輸出されていない。

明治維新の頃から、牛肉を食べるようになったが、すき焼きのように、スライスした肉を食べる文化が定着している。
そのため日本国内では、骨付き肉はほとんど流通していない。
イタリアレストランでTボーンステーキを頼まない限り、骨付きのステーキを食べられる機会は極めて少ない。
骨付き肉を食べる習慣が定着すれば、骨付き肉がアメリカに輸出される日が来るかもしれない。

日本とアメリカの肉食文化の相違はさておき。
オリーブ牛のサーロインは骨付きいかんにかかわらず、圧倒的な存在感があった。
しかも炭で焼いたこともあり、燻した香りがつき、食欲をそそった。ゴテゴテしたソースをつけず、塩だけで賞味するのがいちばん旨い。
オリーブ牛特有の、口どけの良い脂のおかげで、ほとんどのテーブルで完食。

すべての料理を食べ終えたところで、本日メインテーマ。
アメリカ人はオリーブ牛をどう評価しているのか。
ニックさんに報告してもらおう。
「以前、マンハッタンにある最古のステーキハウス『Delmonico's(デルモニコス)』にオリーブ牛を紹介したことがあります」(ニックさん)
その店のシェフに、アメリカアンガス牛と和牛をかけあわせた「US WAGYU(ワギュウ)」と、オリーブ牛の食べ比べをしてもらったそうだ。
「シェフの表情が一変するぐらいオリーブ牛を高く評価してくれました」(ニックさん)
シカゴのステーキハウス「RPM Steak」では、オリーブ牛と一緒に、複数の国産ブランド牛の食べ比べをしてもらったというのだ。
どれがどれかわからない状態で食べてもらったところ、シェフが一番に選んだのがオリーブ牛だった。
「口の中に広がる脂の甘み、繊細な味わい、リッチだけど、しつこくない脂が高評価を得ました。アメリカでもトップクラスのシェフなら、オリーブ牛の味わいを理解してくれる人が増えてきました」(ニックさん)

現在、アメリカでは、アメリカアンガス牛と和牛をかけあわせた「US WAGYU」のクオリティが上がり、人気も上昇しているそうだ。
そんななか、オリーブ牛は、高級ワインやキャビア、フォアグラと同等のポジションになりつつあるという。
うどん県で誕生したオリーブ牛が、肉食文化の国アメリカで認められつつあることを日本人として誇りに思いたい。
と同時に、オリーブ牛ファンとしては、もっと生産頭数を増やしてもらえないものかと切に願っている。

*写真は翌日、浜田恵造香川県知事にセミナー開催報告の記念写真。