オリーブ牛 公式サイト


オリーブ牛の特徴を熟知した奥田政行シェフによる
首都圏・オリーブ牛セミナーが開催された

それぞれに美味しい理由がある、奥田シェフのオリーブ牛料理

中島茂信・文
藤田修平・写真

8月25日、東京ソラマチ31 階、地上150mにあるラ・ソラシード フードリレーションレストランで首都圏・オリーブ牛セミナーが開催された。同レストランのプロデューサー、山形県鶴岡市のアル・ケッチァーノの奥田政行シェフによるオリーブ牛と香川の野菜を使ったオリジナル料理がふるまわれた。

この日用意されたオリーブ牛は、内もも肉、ランプ肉、腕肉に加え、ロース肉。奥田シェフが、オリーブ牛の4つの部位をどう料理したか、紹介する。


一品目は、オリーブ牛の内もも肉を使った料理が登場した。

《香川県のロングアスパラガス「さぬきのめざめ」とフリット》

スライスしたオリーブ牛の内もも肉に塩をし、生ハム状にしたものを香川県産グリーンアスパラガス〈さぬきのめざめ〉に巻き、フリットに仕上げた。「オリーブ牛の内もも肉の特徴は、キメの細かさと繊維の細かさにあります。繊維は細かいのだけれど、けっして固くありません」と奥田シェフ。 まわりにあしらったのはアスパラガスの皮。焼くことでトウモロコシのような味わいになる。黒い粒は、竹の中に塩を入れ、釜で焼いて作る炭塩。この炭塩には若干酸味がある。 なぜ、酸味を含む炭塩を使ったのか。奥田シェフはその理由を説明した。成牛になると、イノシン酸というかつお節と同じ旨味になる。 その肉に塩をふり時間が経つと、イノシン酸からグルタミン酸(昆布と同じ甘い旨味成分)に変わる。 「塩をふり、グルタミン酸を含んだオリーブ牛のもも肉をアスパラガスに巻きました。 イノシン酸には酸味はありますが、グルタミン酸には酸味が少ないため、酸味を含む炭塩を用意しました。 オリーブ牛の脂、塩分、炭塩の酸味で口の中がドレッシングのような味わいになると思います」


二品目はオリーブ牛のランプ肉。

《香川県の大型なす「三豊なす」のコンソメブレゼと》

「ランプ肉はよく動いている部位なので酸味と脂分のバランスが抜群。しかもオリーブ牛のランプ肉は脂のキレが良く、すっきりしていて美味しいです」と奥田シェフ。

そのオリーブ牛のランプ肉を一度柔らかくミディアムにローストした後、グリルパンで表面だけを焼く。 方や、香川県産の三豊ナスは揚げた後、コンソメで煮る。揚げびたし(日本料理で使われる技法)にしたナスと、グリルしたオリーブ牛ランプ肉を合わせた。 その上に薄く切ったミョウガ(独特の香りとほのかな苦味があり、日本料理では薬味に使われる)を添えた。 「キメの細かいランプ肉の表面だけを軽く焼くとしまります。そのしまった肉と、揚げびたしにした、とろけるようなナスとの対比でより美味しく感じられると思います。 オリーブ牛の脂がナスの揚げびたしのスープに移り、素晴らしいコクが生まれました」と奥田シェフ。

小豆島でオリーブ牛を見学したことで
生まれた奥田マジック

三品目はオリーブ牛腕肉を使った料理。

《オリーブ牛が食べる「オリーブ殻」で、オリーブと塩の練り込みパイ》

昨春、奥田シェフは小豆島のオリーブ園と、小豆島でオリーブ牛を育てている石井正樹さんの農場を視察した。 小豆島では4種類のオリーブが育てられており、秋に手摘みで収穫した実でオリーブオイルを生産している。 これまでオリーブオイルメーカーでは、オリーブ採油後の採油果実を土壌還元などにするも、十分に有効活用できていなかった。石井さんはその採油果実に着目した。 石井さんは育てた讃岐牛(黒毛和牛)を加古川食肉地方卸売市場(兵庫県加古川市)などに出荷してきたが、ブランド牛の乱立に伴い価格が低迷。 大切に育てた牛の価格が上がらないことに頭を悩ませていた。そこで石井さんは考えた。採油果実を讃岐牛に与えたらどうだろうか。 オリーブには、旨味成分のオレイン酸が豊富に含まれている。その採油果実を食べさせたら、いい脂になるのではないか。2007 年、乾燥させた採油果実を牛に与えることにした。 その翌年、石井さんが出荷した枝肉を見た市場関係者がほめてくれた。現在、採油果実を高温焙煎したオリーブ飼料を讃岐牛に食べさせている。出荷前の2か月間、オリーブ飼料を与えることで、抗酸化成分や旨味成分のグルタミン酸が増えることがわかった。 「いい脂だ。小豆島のブランド牛として育ててみたらどうか」と進言してくれたのだ。 自信を得た石井さんは、2009 年にオリーブ牛の飼育を始めた。翌春、香川県はオリーブ牛のブランド名で発売することになった。 その結果、もも肉やランプなどの赤身でも軟らかくて、脂がさらさらしていて甘みも旨味もある肉になる。

オリーブ牛の生みの親である石井さんの農場を見学した際、奥田シェフはオリーブ飼料をつまむと、口に入れた。「おいしいです。ナッツのような味わいがあり、癖にな ります。料理に使いたいです」と発言した。この時、奥田シェフはいつかオリーブ飼料を料理に使ってみようと心に誓った。

そしてこの日。オリーブ飼料を使った一品がメインディッシュに登場した。 それが、《オリーブ牛が食べる「オリーブ殻」で、オリーブと塩の練り込みパイ》だ。 奥田シェフはオリーブ飼料を、オリーブ殻と命名した。オリーブ殻、小麦粉、卵白を練り込んだパイで、オリーブ牛腕肉のブロックを包み焼きにしたのだ。「オリーブの香りをオリーブ牛につけたいと思い、パイ包み焼きにしました」と奥田シェフ。通常、腕肉のような硬い肉はブロックでは出さない。けれど、奥田シェフはあえてブロックで調理することにした。それはなぜか。
「腕肉は旨味を含んでいますが、筋もあります。でも、パイ包み焼きにすることでゆっくりと火が入り、固い筋がゲル状になり、美味しく食べていただけます」 腕肉のようなよく動く部位は味の数が多く、複雑な美味しさを含んでいる。

「オリーブ牛は赤身が美味しい。だからこそよく動かしているもも肉や腕肉のほうが、オリーブ牛の真価をより発揮できる部位だと思います」

噛む前に舌の上で転がし、
オリーブ牛の旨味を味わってほしい

最後はオリーブ牛のロース肉を用いた一品。

《レンズ豆と香川のオリジナル米「おいで米」のリゾット》

おいで米は、香川県で開発された米の品種である。モチモチとした食感のコシヒカリとは一線を画し、さらりとした味わいが特徴。そのおいで米をレンズ豆といっしょに炊き上げ、ブラックペッパーをふった。 ブラックペッパーの辛味で米の甘みをさらに引き立てるためだ。日本米は炊き上がると粘りが出る。そのため寿司飯を作るように風を送り、米をほぐしながら冷ますことで粘りが出ないようにした。 おいで米とレンズ豆を皿に盛り、その上に薄く切った生のサーロインを置く。温かいコンソメを注いだ後、タイムと刻んだ大葉を添えた。 「生のサーロインの上に温かいコンソメをかけることで、ふわっと火が入るように仕上げました」と奥田シェフは説明する。

奥田シェフによれば、オリーブ牛をカットしていると感じることがあるという。断面がコンビーフのように崩れる和牛もあるが、オリーブ牛は気持ちよく切れるというのだ。 「オリーブ牛は断面がむっちりして肉がくずれにくいんです。さくっときれいに切れる。マグロなどの刺身を切るような感覚。 キメが細かいので、保水性が良く切れやすいと思います」と奥田シェフは語る。 これまで何度もオリーブ牛を食べてきた奥田シェフに、その味について語ってもらった。「オリーブ牛は赤身が美味しいです。独特の渋みみたいなものも若干含んでいます。 この渋みは癖になります。脂と渋みは中和するので、食べていくと他の和牛とは異なる、隠れた旨味を感じます。舌の上で転がしたくなる味わい。 それがオリーブ牛の特徴だと僕は思います」

オリーブ牛を食べた経験がある人も、初めての人も、奥田シェフの独創性で、精緻でため息が出る美しい料理に感銘を受けたオリーブ牛セミナーであった。